久しぶりに、真面目な話を取り上げてみよう。
2ch の、いわゆる「ムトー自演スレ」を見ると、しばしば「迷惑メールだというが、フィルタ設定なんかで自動削除すれば眼に触れずに済むのだから、迷惑ではない」という趣旨の擁護発言が見られる。これが本当にムトー一味による発言かどうかは疑問視される部分もあるが、往々にしてスパマーが持ち出す論調だから、spam 擁護論の一般的傾向として考えておこう。
なるほど、最近では定額制ブロードバンド接続の普及が進んでいるから、「spam の分だけ電話代や ISP の課金がかさむ」というケースは減りつつある (もっとも、絶対数でいえば非定額制のユーザーの方が多いのだから、まだまだ課金に関する迷惑度は減っていないといえる)。
もし受信させられてしまっても、受信したメールの件名に、正しく「未承諾広告※」が記述されていれば、フィルタ設定で削除できるし、削除してしまえばディスク容量を食うことはない。では、この「スパマー擁護発言」は正当なものかというと、とんでもない話だ。
何が「とんでもない」のかというと、この主張はメールを受信した後の話にしか言及しておらず、膨大なスパム送信と、それに伴う送信エラーの発生、そして返信されるエラーメールなど、無駄なトラフィックがインターネットのバックボーンを脅かしている点について、なんら釈明できていない。メールサーバに与える負荷については、いわずもがなだ。
具体的に数字を挙げて考えてみよう。
仮に、本文だけでなくヘッダも含めた、メール 1 通のサイズが 10KB の spam があったとする。これを 100 万通送信すると、データ量は 10KB×1,000,000≒10GB という計算だ。しかし、これは純粋なデータ部分の数字だから、下位プロトコルのヘッダ情報が付加されて、実際にネットワークでやり取りされるデータ量はもっと増える。
少なくとも、TCP ヘッダと IP ヘッダは必ず付加されるわけで、これらが合計 44 バイト。10KB のデータをまるごと、ひとつの IP パケットにできるわけがないので、実際には細切れにされたデータごとに 44 バイトずつのヘッダが付く。もっと無視できないのは ADSL 回線や ATM 回線で使用される ATM セルのヘッダで、データ長 48 バイトに対して 5 バイトのヘッダが付くから、それだけで 1 割以上の増加だ。
つまり、ヘッダ情報を加味すると、実際にインターネットのバックボーンに送り出されるデータの総量は、10GB ではなく、11GB、ないしそれ以上ということになる。
さらに、spam では送信エラーが多発することが多いから、結果としてエラーメールが返信され、これもトラフィックを圧迫する。送信エラー率を控えめに見積もって 30% とすると、3GB 以上の無駄なトラフィックが、先の数字に上乗せされる計算だ。
ついでに付け加えれば、spam を受信した人が ISP に苦情を入れたり、デ協に通報したりするために送信するメールの量も、spam 送信に伴ってインターネットに加わる負荷に入れていいだろう。
さらに、定量化が難しいものの、メールサーバにかかる負荷がこれに加わる。大量の spam を受け取る人だと、spam でメールボックスがあふれる事態も考えられるから、そちらの負担も考えなければならない。つまり、spam 送信に伴ってメールサーバやインターネットのバックボーンに不必要な負荷が発生し、その分だけ正当なメールの伝送、あるいはその他のトラフィックが遅延するわけだ。すると、それは回り回ってインターネットをビジネスに利用している個人や企業に、時間的な損失を与えていることになる。それも、スパマー自身の自腹を切らずにだ。
「フィルタで自動削除すればいい」というスパム擁護論は、こうした指摘に対して、まったく筋の通った回答を示すことができない。これは、たとえていえば、広告業者が看板を載せたトラックを首都高速道路に大量に送り込み、その結果として大渋滞が発生するようなものだ。スパマーはしばしば、ポストに投げ込まれる広告チラシなどを引き合いに出して自己弁護するから、こちらも広告に例えて反論してみた。
そんなわけで、「spam は迷惑になどなっていない」という主張が、いかに虚構に満ちたものであるかは、十分に理解していただけたのではないだろうか。
(2003.06.29 記)